上限と下限

上限の一意性

一般に半順序集合の部分集合の上限や下限は存在することもしないこともある。存在する場合は一つだけである。

定理  半順序集合 \((L,\sqsubseteq)\) の部分集合 \(X\) の上限は存在すれば一意。

証明

\(a\) と \(a'\) が \(X\) の上限であるとする。

\(a'\) が \(X\) の上限であることから、\(a'\) は \(X\) の上界である。さらに、\(a\) が \(X\) の上限であることから、\(a\sqsubseteq a'\) が成り立つ。

\(a\) が \(X\) の上限であることから、\(a\) は \(X\) の上界である。さらに、\(a'\) が \(X\) の上限であることから、\(a'\sqsubseteq a\) が成り立つ。

反対称律より、\(a=a'\) が成り立つ。

上限の例

実数

\(\mathbb{R}\) は通常の大小関係 \(\le\) で全順序集合をなす。 \(\mathbb{R}\) さまざまな部分集合について、上限と下限を考えてみる。

例(区間) \(a,b\in\mathbb{R}\) ただし、\(a\lt b\) に対して、 \[ \begin{aligned} \inf[a,b]&=a &\qquad \sup[a,b]&=b \\ \inf(a,b)&=a &\qquad \sup(a,b)&=b \\ \inf[a,+\infty)&=a &\qquad [a,+\infty)&\text{は上限をもたない} \\ (-\infty,b]&\text{は下限をもたない} &\qquad \sup(-\infty,b]&=b \\ \inf(a,+\infty)&=a &\qquad (a,+\infty)&\text{は上限をもたない} \\ (-\infty,b)&\text{は下限をもたない} &\qquad \sup(-\infty,b)&=b \\ (-\infty,+\infty)&\text{は下限をもたない} &\qquad (-\infty,+\infty)&\text{は上限をもたない} \end{aligned} \]

\(X=\{1/n\mid n\in\mathbb{N}\setminus\{0\}\}\) すなわち、\(X=\{1,1/2,1/3,1/4,\ldots\}\) とすると、\(\inf X=0\) と \(\sup X=1\) が成り立つ。

問題 \(X=\{n^2\mid n\in\mathbb{N}\setminus\{0\}\}\) すなわち、\(X=\{1,4,9,16,\ldots\}\) とすると、\(\inf X\) と \(\sup X\) は?

集合と包含関係

\(A\) を集合とすると、冪集合 \(\mathscr{P}A\) は包含関係 \(\subset\) で半順序集合をなす。\(\mathfrak{X}\subset\mathscr{P}A\) に対して、その上限は \(\bigcup_{X\in\mathfrak{X}}X\) であり、その下限は \(\bigcap_{X\in\mathfrak{X}}X\) である。

整数と整除関係

\(\mathbb{N}\) は整除関係 \(\vert\) で半順序集合をなす。 \(\{a,b\}\) の下限は最大公約数であり、上限は最小公倍数である。 \(\mathbb{N}\) の \(\vert\) での最小元は\(1\)であり、最大元は\(0\)である。

直積順序と上限・下限

半順序集合の直積順序が順序であることの証明

\(L_1\) 上の半順序 \(\sqsubseteq_1\) と \(L_2\) 上の半順序 \(\sqsubseteq_2\) に対して、 直積集合 \(L_1\times L_2\) 上の二項関係 \(\sqsubseteq\) を \[ (x_1,x_2)\sqsubseteq(y_1,y_2) \iff x_1\sqsubseteq_1y_1\;\text{かつ}\;x_2\sqsubseteq_2y_2 \] で定める。

反射律

\((x_1,x_2)\in L_1\times L_2\) とする。 \(\sqsubseteq_1\) の反射律より \(x_1\sqsubseteq_1 x_1\) が成り立ち、 \(\sqsubseteq_2\) の反射律より \(x_2\sqsubseteq_2 x_2\) が成り立つ。 したがって、\(\sqsubseteq\) の定義より、\((x_1,x_2)\sqsubseteq(x_1,x_2)\) が成り立つ。

反対称律

\((x_1,x_2),(y_1,y_2)\in L_1\times L_2\) とする。 \((x_1,x_2)\sqsubseteq(y_1,y_2)\) かつ \((y_1,y_2)\sqsubseteq(x_1,x_2)\) と仮定する。

\(\sqsubseteq\) の定義より、\(x_1\sqsubseteq_1y_1\) かつ \(x_2\sqsubseteq_2y_2\) かつ \(y_1\sqsubseteq_1x_1\) かつ \(y_2\sqsubseteq_2x_2\) が成り立つ。

\(\sqsubseteq_1\) の反対称律より \(x_1=y_1\) が成り立ち、 \(\sqsubseteq_2\) の反対称律より \(x_2=y_2\) が成り立つ。 したがって、\((x_1,x_2)=(y_1,y_2)\) が成り立つ。

推移律

\((x_1,x_2),(y_1,y_2),(z_1,z_2)\in L_1\times L_2\) とする。 \((x_1,x_2)\sqsubseteq(y_1,y_2)\) かつ \((y_1,y_2)\sqsubseteq(z_1,z_2)\) と仮定する。

\(\sqsubseteq\) の定義より、\(x_1\sqsubseteq_1y_1\) かつ \(x_2\sqsubseteq_2y_2\) かつ \(y_1\sqsubseteq_1z_1\) かつ \(y_2\sqsubseteq_2z_2\) が成り立つ。

\(\sqsubseteq_1\) の推移律より \(x_1\sqsubseteq_1 z_1\) が成り立ち、 \(\sqsubseteq_2\) の推移律より \(x_2\sqsubseteq_2 z_2\) が成り立つ。 したがって、\((x_1,x_2)\sqsubseteq(z_1,z_2)\) が成り立つ。


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