どの分野にも、一般に広く信じられている間違いがあります。この手の間違いは、ちゃんと体系的に学べば間違いであることが一目瞭然だけど、聞きかじりでわかったつもりになっているだけの人はよくひっかかります。初学者はそれを逆手にとってうまく利用しましょう。一般向け解説書にその手の間違いがあったら、その本の著者が聞きかじりで書いているだけでちゃんと調べていないことの状況証拠です。安心してその本をゴミ箱に捨てる(あるは仲間うちの笑いのネタにする)ことができます。
ただ、初学者自身が「よくある間違い」リストを作ることは、普通は無理でしょう。そんなリストを作ることができる人は、すでに初学者ではありません。そこで、すでに初学者でない人が協力してリストを作らなくてはなりません。その一環として、ここにリストの一部になるであろう項目を並べることにします。
先行して同様のリストを作成されている方がいらっしゃったら、ご連絡ください。合流させていただきます。
「一階述語論理の完全性」と「自然数論の不完全性」では違う「完全」について述べているので、並置のしかた自体が間違っています。詳しいことは『ゲーデル・不完全性定理』(吉永良正)の書評に書きましたので、ごらんください。
定義をちゃんと理解しさえすれば、こんな間違いはしませんよ。
数学の理論で公理を増やして定理が減ることはありません。だから、公理を追加することで矛盾が解消することなど、ありえません。集合論そのものをよく知らなくても、常識を働かせるだけですぐわかる間違いです。なんでこんなのを信じちゃう人がいるんでしょうねえ。
これを間違いと見抜くには、直観主義論理のテクニカルに正確な理解が必要ですね。やや高度な間違いかもしれません。でも、間違いは間違いです。
直観主義論理でも \(\{x \mid x \notin x\}\) の存在から矛盾を導くことはできます。要は、「\(\phi\) が矛盾を導く」から \(\neg\phi\) を導くのは直観主義論理でもアリ(というより、それが直観主義論理での否定の定義)なことがミソです。入門編のちょっとした演習問題ですね。やってみましょう。
まず、\(R \in R\) を仮定すると(♡)より \(R \notin R\) が得られ、仮定と矛盾する。\(R \in R\) を仮定して矛盾が導かれたので、\(R \notin R\) が成り立つ。 これと(♡)から、\(R\in R\)が得られる。
\(R \in R\) と \(R \notin R\) がともに成り立つので、矛盾する。